知人からの紹介により、マンションやビルの管理会社からこの業界に飛び込んだ木下さん。入ってまず気付いたのは、自分の職業や技能に誇りを持つ諸先輩方の姿だったそうだ。
プロ職人として圧倒的な技量を持ち、何かに付け非常に厳しい世界を生き抜いている姿に、自分も「こうありたい」と影響されたのだとか。そして入社以来、約9年。そんな先輩方の後をひたすら追い続け、気が付けば若い社員から、自分が目標にされる存在となった。
「この9年間、先輩の凄い技術を見ながら、本当に『なにくそ!』『負けてたまるか!』の気概で頑張ってきました。その頑張りのなかで、やがて私も責任者となり優れた後輩を育てなければと考えるようになりました」と、満面の笑顔で語る。
木下さんが、特に好きな作業だと思っているのはガス工事等の実施のためにガス管内の圧力を上げ下げするバルブ操作。その面白みはどこにあるのだろうか?
供給作業は、ほとんどがチームとしての組み作業となる。そのなかでも前日の作業段取り、打ち合わせがあり、さらに作業中ではダブルチェック。また、建設工事の監督、作業長さんとの意思疎通など、重要なポイントが多岐にわたっている。そのような工程では、小さなミスが大きなトラブルになりかねない。
「チームとしての動きが、とても重要なんです。特にバルブ操作は緊張感をもって作業しています。でも緊張感を持ちながらも、最近では凄く面白みを感じています。やりがいある作業だと思っています」と、意欲的に話してくれた。
もうひとつ、木下さんがこだわっている作業がある。ガバナー(整圧器)の分解点検である。ガバナーはガス管内の圧力を常に一定に調整するための設備であり、この作業はガバナーが正常に作動し続けるよう部品単位に分解して清掃や交換を行い、再組立てを行うものだ。木下さんは、「これが扱えなくては、一人前の供給屋とは言えない」とまで断言する。そのガバナー分解において、「やはり現場スキルは先輩が教えなくては・・」との思いを胸に若手教育の一端を担っているのも「やりがい」なのだと言う。「私も、後輩を教える立場になったのだと、『責任とやりがい』を感じているんです」と誇らしげに語った。
木下さんを入社以来ずっと見ている会社の方に、「木下評」を伺ってみよう。
「木下君は熊本地震の際は供給復興隊に選抜されました。技量が高いのはもちろんですが、なんと言っても後輩から慕われているのがいい。ソフトだけどしっかり指示指導していて、『これが新しい時代の供給屋、先輩像なのかな』と思っています。」とのこと。現代における新しい技術伝承の可能性を、木下さんの中に見出している。
「家族や家庭が、やすらぎの一番の場」と言う木下さん。
ソフトな木下さんの背景にあるのは、大切な奥さん、お子さんなど家族への思いなのかもしれない。
そして、もうひとつ、大きな支えとなっているのは、後輩はもちろん先輩も含めた仕事の「チーム」だといえるだろう。今、趣味としてリフレッシュも兼ねて取り組んでいるフットサルでは、個人の働きだけでなくチームとして総合的に動くことの重要性を強く感じている。そんな思いの中で、「チーム」が、ある意味「もうひとつの家族」として、木下さんの中に位置づけられているのだ。大切な「家族」のために、自分はどう動くべきか。
チームを大切な家族として捉えている木下さん。木下さんの周囲に対するやさしさと厳しさが少し理解できたような気がする。